日本各地で梅雨明けも進み、容赦のない暑さが襲ってくる。6月まで羽毛布団にくるまっていたほど朝晩は寒かった気もするが、それがいつのことだったか忘れてしまうほど、今では夜も寝苦しい。こう暑いと、靴紐を結んで玄関から一歩を踏み出すのも億劫になる。そういえば去年は暑さなど気にせず、レースに出て、ただひたすら走っていたな、と思い出した。
「旅の延長」が「競争」になった時
前回のコラムでは自分にとってレースは旅の延長だと書いた。知らない土地へ行き、人と出会い、文化に触れる。走ることを通して、自分の世界が少しずつ広がっていく。それが僕にとってトレイルランニングである、はずだった。
ところが、去年ひょんなことから生まれて初めて、「競争」のためのトレイルランニングを、ほんの少しではあるが経験することになった。
そのきっかけは、年間を通して競われるATM(アジアトレイルマスター)だった。代表選考で予期せず補欠となり、その後の繰り上がりによって、10月にベトナムのムーカンチャイで開催されるファイナルへの出場機会を得た。元はといえば、旅の延長で出場したラオス・ルアンパバーンウルトラトレイル100kとネパール・マンジュシュリートレイルレース100マイルの2戦で上位25位以内に入り、日本人選手としては年間6位のポイントを有していたことがきっかけとなる。
正確に言うと、ルアンパバーンウルトラトレイルについては、もともとまったく前情報を持っていなかった。前年の2023年にラオス・ルアンパバーンを訪れた際、近くで走れるトレイルがないかGPXを探していて、その存在を知った。海外レースを走るなら、このルアンパバーンウルトラトレイルがいい。その時から、そう決めていた。この大会は、ラオス北部にある世界遺産の町、ルアンパバーン周辺を走るレースだ。Facebookで大会の写真を見つけた。そこには選手たちが村の子どもたちに囲まれ、一緒に笑いながら走る姿が写っていた。
自分は、その写真を見て、トレイルランニングに求めるものはまさにこれだ!と直感的に感じたのだった。翌年、チャンスが訪れ、ラオスで仕事を作り、レースに合わせて渡航の計画を立てる。100kの参加者は20人、うち完走者は10人、自分はそこで3位となった。そこで1位だったのが松山優太選手。彼にこのルアンパバーンウルトラトレイルがATM、アジアトレイルマスターの対象レースであることを聞き、アジアの各地のローカルレースを知るためにもまず、ATMのシリーズ戦への挑戦に興味を持つようになる。

ATM アジアトレイルマスターって?

ATMについて詳しくは公式サイトなどを見ていただくとして、簡単に説明すると、アジア各国で開催される対象レースの成績によって年間ランキングが決まり、その成績をもとに各国の代表選手が選ばれ、シーズンの最後にはATMファイナルが行われるシリーズ戦だ。ファイナルでは個人順位を争う一方、国別のチーム戦も行われる。ちなみに、自国以外の100マイルならボーナスポイント付与などもある。
自分はアジアを舞台に仕事をしているし、このATM対象レースに仕事を絡めて走れたら面白いかも。そして何よりアジアの友人が増えるかもしれない、そういう軽い気持ちでネパールのマンジュシュリートレイルレースもATMのシリーズレースということを知って、エントリーしたのだった。
ラオスとネパール。どちらも仕事と絡められること、そして何より、その土地の魅力を味わえることが決め手となって選んだレースだった。どちらかというと、国内の100マイルレースで求められるITRAポイントや、UTMBストーンを追いかける世界とは少し距離を置きたかった。その「ポイントの呪縛」から離れたくて選んだ二つの海外レース。それだけで自分が日本代表候補になったという、にわかには信じ難い事実に、最初は戸惑った。この時の話はラジオ練エピソード171,172でもお話しているのでご興味がある方は是非。リンクは本文末にもつけています。

