アブラゼミもツクツクホウシに代わり、秋の気配も感じると思いきや全然まだ暑い。今年のお盆、皆さんいかがだっただろうか。
TJARや、広島でUTMBレースが発表されるなど、なかなか盛り上がった印象の今年のお盆。
自分は仕事で韓国の第三の都市大邱とソウルに1週間滞在し、ソウルでは恒例のナムパ練 aka 南山公園を毎朝走っていた。

韓国ソウルではナムパ練一択
ソウルへ行くたびに、朝は決まって南山公園へ向かう。福岡・西公園練がウエパ、南公園練がサウパならば、ソウル・南山(ナムサン)公園はナムパ練。なお、こう呼んでいる人間は自分以外には知らない。
ソウル繁華街の明洞(ミョンドン)や鐘路(ジョンノ)からも近く、シンボルであるNソウルタワーまでトレイルに階段、舗装路とバリエーションと起伏に富んだ道を距離10km、300m D+前後を適度にキツく、適度に走れるコースでトイレや水場も整備された最高の環境。近所にあったら絶対毎日走りたいほど、時間が許せば3、4時間、ハムスターの如くずっとグルグルしていたいほど大好きな公園である。
何よりも馴染みのない街も自分の足で走ると一気に距離感が分かり、2Dの平面が3D、立体的に見えることで一気に身近な存在になる。
地下鉄やバスでは気付かなかった坂道や、小さな路地、商店や市場、公園。ガイドブックには載っていない街の輪郭と息遣いが少しずつ見えてくる。レース会場でも観光地でもない。ソウルへ来ると、ただ朝走るためだけに南山公園に自然と足が向いてしまう。
そんな場所が世界に一つでも増えると、その街はもはや旅先ではなく、「また帰ってきたい場所」になる。
走ることで現地の景色の一部になれるので、ジロジロ怪訝に見られることもないし、ローカルのランナーと同じ環境で汗を流して走ることに打ち込める。
この感覚は本当に楽しいし、走ることに国境はないことを痛感させられる瞬間でもある。

ローカルのルートをdigる楽しさ
ソウル・南山公園で新たなルートを発見するのも楽しいのはもちろん、自分にとってトレイルランニングの楽しさの一つに、近所で知らなかったトレイルルートを新たに開拓する、というのがある。
それは音楽に例えるならば何百回も聴いていたはずのアルバムに、実はシークレットトラックが入っていたことに気付く感覚。
あるいはタモリ倶楽部・空耳アワーで、ずっとヘビーローテーションで聴いていた洋楽に突然日本語が聴こえてきて、「これ採用されるんじゃないか」と思い、テレビ朝日にハガキを送りたくなる、あの妙な高揚感。
トレイルを走りながら「こんなルート、自分以外誰も知らんやろ」と、ついつい一人でニヤけてしまう。有名な山域ならまだしも、自宅から走って行ける里山ならなおさらである。
え、まだ分かりづらいって?
しょうがないな、DJに例えて説明しよう。
レコ屋の100円セール箱を何となく漁っていて、試聴もせずジャケットだけで買った一枚。家に帰って針を落としたら、とんでもない名作だった。驚いて、たちまちネットで調べてみたら、実は限定200枚の自主制作盤で、海外では3万円で取引されていた。
そんな盤を掘り当てた時の、「ジーザス!!!マジで神様ありがとう!!!」という感覚。
自分にとってローカルの山で新しいルートを見つける喜びは、それに近い。
我が家は福岡市南部、早良区南端の佐賀県との県境。飯盛山、油山、脊振山、金山、井原山、雷山。脊振山系の山が全てラン圏内。トレイルもあれば、何のために作られたか不明な林道もあり、峠も無数にある最高の立地。一年中仕事せずに走って良い、と言われたならばずっと調査をしたいくらいdigり甲斐のある環境である。
踏み跡少ないフカフカの広葉樹林のトレイル、心肺追い込める峠道、インターバルができる坂道、暑い夏にドボンしたい沢。メニューに応じて行き先が決められる、よりどりみどりの環境は本当に恵まれていると感じる。
友人たちに紹介したいが、世間に広く知られてしまうと弊害が出そう、そういう相反する気持ちがあって紹介しづらい環境。
拗らせたサブカル好きにありがちな、アンチメインストリーム、アンダーグラウンド至上主義みたいな気持ちもある笑
そんな感じで、自分は誰かと同じ練習をするより、「この道どこに繋がってるんだろう?」と知らない道をdigっている時間の方が今は面白い。
年齢も仕事も家庭も、置かれている環境も人それぞれ。人生の中で走ることが一番になる時期もあれば、五番目、十番目になる時期だってある。月末に他人のストラバの月間距離を見て自分に幻滅する必要もない。別にみんなが同じ方向に走らなくてもいいし、それは決して逃げでもないと思う。
速くなることだけじゃなく、走ることで自分の世界が広がっていくこと。それもまたトレイルランニングの楽しさなのではないのだろうか。

早良100構想
これらの知る人ぞ知る、あるいは一般には知られざるトレイルと舗装路を繋いでマイ100マイルコースを作りたいという野望が自分にはある。
題して「早良100」。
大会の形式は許認可や運営上、難しいかもしれないが少人数のセルフチャレンジ、練習会形式だとしてもやってみたいと考えている。
脊振山から金山への縦走路はもちろん、井原山・雷山、油山・荒平山、西山・王丸山、飯盛山・高祖山・鐘撞山・叶岳・高地山などなど。
福岡市南西部、早良区(一部、福岡市西区・福岡市南区・那珂川市・糸島市)の山々を繋いで100マイルの旅を設計する。
もしかすると100kになる可能性もあるが、含まれる山域とトレイルには非常に可能性を感じている。
弥生・古墳時代の東アジアにおける歴史のダイナミズムに対峙してきた糸島・高祖山。
脊振山系には、中国から伝来した茶が日本で最初に栽培されたとされる地、そして修験道に由来する山岳信仰。
中世の城塞としての油山・荒平山。
三瀬街道の宿場町としての西山・王丸山。
古代から近世までの歴史が多層的に重なっている早良の山とトレイルは里山ならではの人間と自然との向き合い方を教えてくれるような気がする。
知識は必須でないが、ある程度背景をインプットして巡ると、一層楽しめるトレイルが早良100である。
つまりは文系トレイル、走っても良いし、歩いても良い。自分のペースでその文化的な魅力を感じてもらえれば良い。
そういう視点でいつも走るトレイルを捉え直すと新たな発見があるかもしれない。
どういうルートにするか、どこをエイドとするか、など検討事項は多数あるが、まずは自分の近所のローカルトレイルを楽しむ。
小難しいことをツラツラ語ってしまったが、要は地元最高!って話。
レペゼン地元、レペゼントレイル。
ワンラーブ、ジャーラスタファーライ、ヤマン!
トレイルランニングは地元への愛着心を一層高めてくれる。
今回のコラムはそんな感じです。


(8月28日追記)
本稿公開前の2026年8月26日現地時間午前、ネパールと中国・チベット自治区との国境付近で大規模な鉄砲水が発生し、甚大な被害が出ています。また、地元九州でも熊本・八代を中心に地震による被害が発生し、現在も復旧・復興活動が続いています。
犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに、被害に遭われた皆さまにお見舞い申し上げます。
日本各地で発生する線状降水帯など、いつ、どこで、何が起こるか分からない時代。一方で世界を見渡せば戦争や紛争も続き、人々を分断するような、きな臭い動きも垣間見えます。
今回の災害を受け、ネパール政府は支援を一元化し、首相自然災害救援基金(Prime Minister’s Natural Disaster Relief Fund)等への義援金を呼びかけています。まずは本稿でもそちらの公式オンラインポータルを支援窓口をご案内します。
自分一人にできることには限界がありますが、20年近くお世話になってきたネパールに何か恩返しができないか、自分自身でも現地の友人たちと連携しながら、今後必要とされることを考えていきたいと思っています。具体的になったら、また本連載でもお知らせします。
トレイルランニングが世界を繋ぐことを信じて。
